鹿児島県の珍スポット、変わった観光地

超秘境!悪石島の来訪神「ボゼ」をたずねて80里

ボゼマラに突かれたくて

会いに来てくれる神、来訪神。
最近はユネスコ無形文化遺産候補として話題になったが、私のなかでも数年前からブームが来ている。
そんな神々のなかでも、南国カラフルな仮面をかぶり、男根を象った棒で突いて赤土を付けてくるボゼ神にどうしても会いたくて、「ボゼ祭りツアー」に参加したぞ。

場所:鹿児島県鹿児島郡十島村大字悪石島(悪石島コミュニティセンター近くの公民館・テラと呼ばれる墓地)
日程:旧暦7月7日〜16日に盆踊りが行われ、最終日(2017年は9月6日)に仮面神ボゼが出現

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悪石島へのアクセス知識

中川運輸が主催しているボゼ祭りツアーは3泊4日で49800円。
1日目と4日目は主に移動だが、鹿児島港からの旅費(フェリーと島内移動のマイクロバス)・食費・宿泊費・温泉代・悪石島以外の吐噶喇(トカラ)列島の島々(今年は宝島と子宝島)の観光ガイド代・染め物体験・クイズ大会で全員が貰えるお土産代も含めてこの額なので、かなり充実している。

個人手配の場合
往復フェリー運賃(2等、鹿児島港〜悪石島間のみの往復)が14020円。
悪石島には食堂等はないが、食事を提供する民宿が数軒ある。
ただ、ボゼのシーズンは民宿の方も祭り準備で多忙となり民宿として機能せず、一般客が利用するのは難しい。
ツアーではなく個人手配でボゼ祭りに参加することはできるのか?と観光協会に問い合わせたことがあるが、「船自体はツアーに参加しなくても乗れるが、宿泊は野宿、食事もご自身で用意できるのであれば…」という返答だった。

実際、キャンピングカーで入島してカップラーメンを食べながらガッツで取材なさったテレビ局もあった。
ツアー客限定で夜間は「フェリーとしま」に宿泊できる。
ブトと呼ばれる根性のある蚊と戦いながら野宿するよりは、美味しい郷土料理を食べながらゆっくり寝たい…と思ったのでツアーに参加し、それは大正解だった。
ボゼ初心者にはツアー参加がオススメ。

悪石島へのアクセス


本土から向かう場合の選択肢は村営定期船「フェリーとしま」のみ。

鹿児島港23時発、週2便運行(月・金)という便数の少なさだが、70名ほどの悪石島民、そして吐噶喇列島の人々にとって本当に大切な足である。
(祭り前の出航はボゼ特別便となり平常と異なるので個人手配の場合は早めの問い合わせが必要。)
この船で12時間以上ゆられる。
出発日は集中豪雨で船が大きく揺れ気分が悪くなり、酔い止め薬に助けられた。
それでも、2年前は大雨のためフェリー欠航となりボゼ祭りツアー自体が中止になったというから、船がちゃんと出て、ボゼ当日の天気に恵まれただけでも幸運だったと思える。

2号客室。ボゼの時は満室近くまで埋まるが、普段は広々としているらしい。
周りの人と仲良くなってコンセントなど譲り合いながら使う。

船内にはラーメン・酒・アイス等の自販機があるほか、簡易的な食堂と売店があって便利。コイン式シャワーまで付いている。
悪石島には土産物ショップがないため、船内売店で販売されるボゼグッズは要チェックである。
(悪石島でボゼ出現後、落ち着いてから島民の方に声をかけると限定のTシャツと悪石島トートバッグ&クリアファイルセットを購入できたが、島の売店は日用品メインで土産物は置いていなかった。)

カラフルなボゼが描かれたシャツと絵葉書をゲット。

吐噶喇の美しい島々を経由し、美味しい食事と自然観光を楽しみながら、ツアー3日目(ボゼ当日)に悪石島に上陸!

ボゼをお迎えする前にテラで盆踊り

14時半ごろ、テラ(墓地)と呼ばれる広場に島人が集まりだし、厳粛な盆踊りが始まる。
踊りの種類は長崎船(長崎船、細川殿)、コダシ踊り、俵踊り、財布踊り、魚釣り踊り、ハッパン大将の7種類。
CDプレーヤーの音楽ではなく、島の男性が太鼓を叩いて踊りながら良く通る地声で歌う。歌詞は昔の言葉なのか、うまく聞き取れなかった。
20人ほどの男性達の踊りは素朴ながら振りが大きく、力強い。

耳を掴む独特の動作もあった。

男性達が踊る傍らに何の説明もなくドンと鎮座するこの岩。
お椀状の部分に赤土があるが、この赤土こそボゼがまとうもの。
ボゼに付けてもらうと子宝に恵まれ厄よけになるという赤土はココ由来だ。
神様のパレットというか、ボゼ専用化粧道具というか。

この後、一部の島民を残してテラは立ち入り禁止となり、ボゼ出現の準備が始まる。
仮面の装着・脱着場面は人に見せてはならず、見られると不幸になる解釈があるため私達は公民館に徒歩移動し、公民館前の広場で再度、盆踊りを鑑賞。
2回目の盆踊りが終わるころ、赤土の化粧を終えた3体のボゼがテラを飛び出し、公民館までダッシュしてきて暴れ回るのである!

「ボゼが来たぞぉ~!!!」

島の男性が太鼓を叩いてボゼの来訪を知らせ、島民もツアー客も歓声を上げる。
ハイビスカスの垣根の向こうから2体、反対側の道から1体のボゼが公民館を挟み撃ちするように勢いよく出現!
ダッシュしたりその場で回ったりする予測不可能な動きで人間を翻弄しつつ、女性をメインターゲットにボラマラで突かんと狙ってくる!

モウ、ニゲラレナイ。
しっかり赤土を付けていただいたのだった。

小さな子供の号泣、撮影に必死なカメラマン、女性の歓声と悲鳴、でも最後は皆、笑顔。
出現は10分程度の短時間だったが、カオスで、不思議で、楽しい時間だった。

島の踊りでボゼを誘う女性と、踊りに誘われるボゼ。
人間を幸せにして役目を果たしたボゼはテラに帰っていき、島民は深夜まで公民館で飲み明かすのであった。

3体のボゼ仮面は、頭の尖った「ヒラボゼ」、人の形状の「ハガマボゼ」、体の小さい「サガシボゼ」。
この他、滅多にないが年によっては「裸ボゼ」が現れるらしい。
裸ボゼを目撃したことのあるツアースタッフさんによれば島民に「ミニボゼ様」と呼ばれていたそうだが、どのように裸なのか気になる。
これらの仮面は宮古島パーントゥのように代々大切に保管するのではなく、神事が終わるとテラの裏山に捨てられ自然に戻り、毎年新しい仮面が作られるため、毎年顔が少し違う。
ちなみにボゼ制作場面も撮影等が禁止されている。

宴の後は温泉で一休み

ボゼの赤土は縁起物なので、せっかくなら汚れを気にせず付けていただきたいもの。
私もこのくらい、赤土まみれに。
ボゼマラに突かれなくても、ボゼ全体に赤土のドロがかかっているため近づくだけでも服が汚れる。
土汚れは洗濯で落ちたが、参加されるなら高価な服や白い服はオススメしない。

ツアー参加者はボゼ観賞後に「湯泊温泉」に案内され、さっぱりできた。
島で水は貴重なので、出しっ放しにしないよう注意。いい湯だった。

悪石島の食事について

ボゼの宴、入浴後に悪石島コミュニティセンターでいただいたツアー客用のボゼ料理(島のお盆料理)。
むかごご飯、かいのこ汁、きんかん豆腐、みがしきの天ぷら、いーあげ、落花生豆腐、ニガウリの味噌いため、といもがらときゅうりの酢の物、煮しめ、焼きなす、鼻つまみ団子。
お盆なので、人参やトマトのような赤い食材は避けてあるという説明された。

郷土料理をたくさん堪能できたうえに、全部手作りでとても美味しい。
食材も器具も限られている島で、早くから準備して50名以上のツアー客の食事を用意してくださった調理スタッフの方に心から感謝しなければならない。

ボゼ翌日のツアー朝食。お盆料理ではないのでトマトの赤色が取り入れてある。
悪石島にはコンビニもレストランも無い。タクシーもない。
小さな売店と自販機が1カ所あるが、ツアー参加以外で島の料理をいただくにはボゼシーズンオフに民宿等で食事をお願いしないと難しそうだ。

観光客が増えるお盆の時期に民宿に泊まれないなんて不便だとか、土産物販売などでもっと商売っけを出さないと、とかいうツアー客の声も聞こえたが、住民70名程度の秘境の島で、伝統ある神事を大切に守り続けていくだけでも大変なことで、素晴らしいこと。

それを拝見するだけの我々がとやかく言えることではないとも思う。

悪石島のみどころ

金山神社の鋸歯文(きょしもん)列の鳥居。
鳥居の上部に刻まれているギザギザが鋸歯文。魔除けの意味があり、現存しているものは貴重だとか。

「美女とネズミと神々の島」記念碑。
昭和30年代の戦後の悪石島に滞在し、島の生活や人々について纏めた著書が「美女とネズミと神々の島」。
私も取り寄せて読んでいる最中なのだが、伝統を一番大事にする当時の雰囲気が伝わって面白い。神の領域では花1本でも持ち帰ってはいけないという掟を破ってスッポンを取って殺して食べてしまう話などがあり、なかなか破天荒な性格のライターだ。

最後に、悪石島の人々。
フェリーが港を出るときはキレイなテープでお別れしてくれて…

船が出ても、手を振りながら港のギリギリまで走ってサヨウナラを言ってくれた。
蛍の光をバックミュージックにツアー参加者一同、泣きそうだったよ。