ハック・思考・プラン

あなたのある日、僕の誕生日

この記事は僕の日記。情報量0。
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2023/12/4

僕は33回目の誕生日を迎えた。
受信メールの「お誕生日おめでとうございます!」という件名から始まる大量のメルマガやスマホの通知、パソコンのポップアップ、カーナビすらも誕生日を祝ってきて呆れた。

まるでデジタルお祝い中毒だな。笑えない。

いつものように車を運転をする。
運転中に仕事の外注施設から連絡の通知が来たことに気づく。

フリーランスの自分はカフェ、ホテルどこでもそれなりに働ける。
旅行をしながら働ける。自宅の方が効率は良いが。

通知の確認とトイレ休憩を兼ねてドライブインへ。
ついでに自販機でジュースを買おう。
自販機の前ではカップルがジュースを選んでいる。
早く選んでほしいなぁ。

ふと、自分の視界の端でバックパッカーを体現したような風貌をした女性が恐縮そうに親指を立てていることに気づいた。
「すみません、ヒッチハイクです。」と軽く会釈しながらそう呟く。
どうやら僕に言っているようだが無視しよう、めんどくさい。
「東に行きたいんですけど、もし行くなら乗せていただけませんか?」
うーむ、どうやらまだ僕に言っているようだ。

「車の中が汚くてね。」
「いえいえ、乗せていただければありがたいです」
断るつもりでそう言ったのだが、彼女には承諾に聞こえたようだ。

いつもはゴミで散乱している車内が今日に限ってまぁまぁキレイだったのと、断り切れず仕方なく彼女を”東”へ乗せていってあげることにした。

「ありがとうございます、すぐ見つかってラッキーです」
彼女は助手席に座り、うれしそうに話す。
「ここのドライブインの様子とか撮影しなくていいんですか?待ちますよ」
昨今のレトロブームもあり、全国的にマニアの間でも注目されているドライブインだ。
ヒッチハイカーなんてYoutuberかインスタグラマーだろうと思い、気を利かせそう言ってみた。
「そうなんですか、私そーいうのやってなくて。いろんな人にやったら良いのにとは言われるんですけどね。」
照れくさそうにそう話す。

「日本一周でもしてるんですか?」
「いえ、伊豆と宮崎をヒッチハイクでよく往復しています。日本一周は特に興味が無くて」

「なんでヒッチハイクを?」
「楽だからですよ~」

なんだこの女は!?
想像の斜め上を行く発言ばかりする。

「ヒッチハイクなんて危ないんじゃないですか?」
「乗せてくれる人は危なくないですよ。お兄さんは危ない人なんですか?」
「危なくはないかなぁ…」
「じゃあいいじゃないですか。」

「どうしてヒッチハイクなんてしようと思ったんですか?初めてヒッチハイクした時どうだったんですか?」
「ニュージーランドでワーホリで行ってる時にあっちの人ってみんな親切だったんですよ。
それで歩くのめんどくさくなってヒッチハイクしてみたら上手くいってーって感じですね。」
「すごい、僕はUber(白タク)でも緊張しますよ。」
「へぇ!海外行かれるんですね!」

それからお互いに国内外の旅行の話や経験の話をした。
自分もそれなりに奇想天外な経験をしているが、この女性とんでもないエピソードが出るわ出るわで驚いた。

「お兄さんはヒッチハイクはしないんですか」
「僕は…、しないですね」
「へぇ、なんでですか?それだけあちこち海外行ってるならやってみれば良いのに」

なんでだろうか、考えてみる

「多分、僕は会社員で休みが終わる前にはキチンと帰らないといけないからですかね。
ヒッチハイクだと旅行のプランは立てられませんし。」
「なるほど~、確かにそうですね。私、会社員じゃないのでわかりませんでした。」
「お仕事は?」
「各地を転々としてその土地で知り合った人のところで数日働かせてもらって、住まわせてもらったりお金をいただいています。」
「すごい、僕にはそんな旅行はできないなぁ」
彼女は笑う。

彼女は正直な印象を言うと頭のネジが数本飛んでいる。
寝袋を持ち歩くのがめんどうなので現地調達で段ボールにくるまって野宿をする。
見ず知らずの人と車中泊をする。
それは危ない行動なんだよといっても、意味がわからないという反応だ。
彼女に危ないを教えることは”宇宙人に左という概念を教えるにはどうすればいいか?”のような思考実験に近いものを感じた。

ドライブインから数十km東に進んだ大きな道の駅たどり着き、降ろしてあげた。
「大きな道の駅ですね、トラックもいっぱい停まっていて次の車が見つかりそうです!」
「すぐ見つかると良いですね」
彼女に別れを告げて、自宅に戻ろうと帰路につく。

東北訛りのヒッチハイカーがいなくなり若干の寂しさを覚えたが、外注施設からの通知の確認を忘れていることに気が付く。
コンビニの駐車場に車を停めて通知を確認すると、僕の確認待ちで作業が止まっているパターンだ。
「ヒッチハイカーの対応していたので遅れました」
なんて言えずにとりあえず確認作業をして連絡を返す。

確認作業と訂正作業を終えた。
彼女を降ろして2時間くらい経っただろうか。
誰かに拾われて東に進めていたらと思うのだが、一応気になるので道の駅に様子を見に行った。

ベンチに座り読書をする彼女がいた。
とりあえず対面に佇んでみて彼女を見つめてみた。
彼女は本に集中しているのか気づかなかったが
十数秒後、気配を察知したのか本から目を上げて私と目が合った。

挿絵はChatGPTに生成してもらっているがいくらなんでもここまでロマンティックではない。

僕と気づいてパァと音が鳴るように笑顔になったのが印象的だった。
ちょっとオーバーすぎないかと僕は思い、顔が熱くなるのを覚えつつ
「とりあえずもうすこし東、行きます?」と言った。

再び彼女を車に乗せて、東へ向かう。
「乗せてもらえる車、見つからなかったんですね」
「そーなんですよ」

彼女が次の車を見つけやすいように高速道路の上りサービスエリアまで連れていくことにした。

丁度地元の会社の帰宅時間による渋滞に巻き込まれながら彼女と旅行談議に花を咲かせた。
単身、モンゴルに行き遊牧民のゲルに言葉もわからないまま突撃し、ホームステイを行った話
他人のなど彼女やその周辺の人物の話は刺激的だった。
初めて渋滞がありがたいと思った。

自分の旅行のスタイルは気づけばコンテンツを生み出す材料になっていた。
しかし、彼女らの旅はコンテンツ化など毛頭にない。
計画も効率も躊躇も全くない。
無軌道で衝動的、徒然なるままに。
僕にはできない旅のスタイルだった。そして、やりたい旅のスタイルだった。
それはフリーランスになればできるようになると思っていた。

そして、僕はフリーランスになった。
しかし、なぜかできなかった。行動に移せなかった。
計画を立て、いつでもカフェやホテルに逃げ込める計画を立て、小銭を稼ぎつつ旅行をする。
コンテンツ化も忘れない。
自分は本当にこんなことがしたかったのだろうか?

お金がめちゃくちゃあればやりたいことができるようになるかもしれないと思っていた。

今、助手席にいる彼女はそんな状態になくても私の憧れていた旅を行っている。

結局、自分にはどういう状況になろうとそういう旅ができないと思い知らされた。
思い知らされると自分の旅に対する未練のようなものが消えた気がした。

「僕はフリーランスで働いてるんですけど、久々に初対面の人とこんなに話した気がします。ありがとうございます。」
「実は今日、僕の誕生日なんです。忘れられない良い誕生日になりそうです。」

さっきまで奇妙奇天烈で下品な旅の話をお互いしていたので、僕の突然畏まった発言に彼女は一瞬、驚いたような表情をした。

「私、〇〇って言います。」
「良い名前ですね。」

思わずそう言ってしまった。

実際、日本人的に自然な名前かつ回文になっている良い名前だ。

「そうなんですよ!外国の人からも発音が面白くて受けが良いんですよ!」

嬉しそうだ。良かった。

「僕は××と言います。」

目的地のサービスエリアの直前で自己紹介をした。

ずっと気になっていたことがあった。
「なんで〇〇さんは僕にあの時、声をかけたんですか?
もっと人がたくさんいましたし、僕が車に乗っていることもわからなかったはずですよね?」

「車に乗っているかはわからなかったんですけど、車に乗っていたら乗せてくれそうな人だったので声掛けました。子供連れとかは厳しいってあるんですけど、直感です。」

思わず自分は深い深いため息をついてしまった。
負けた。完敗だ。

そして、サービスエリアに到着して彼女を降ろした。

「今日は2回もありがとうございました!」
「頑張ってください。またどこかで会えると思いますよ。」
「ではまた!」

本当は連絡先を交換したいと思ったが、交換しないことにした。
彼女には彼女の旅に集中してほしかった。

お互いに手を振りながら別れた。

僕は自宅に帰り、残った作業をこなす。小銭を稼ぐ。
203/12/5、深夜1時。
作業が終わる。

寝ようかと考えたが、彼女のことが気になる。
今晩は特に冷えるらしい。

私の限界まで東に連れて行っても良いと思った。
自分にできないと思い知らされたの無軌道で衝動的な旅が今ならできるような気がした。

今しかできない気がした。

彼女を降ろしたサービスエリアに再び訪れた。

しかし、彼女の姿はどこにもなかった。
彼女は旅を続けられたようだ。

「良い誕生日だったな。」
彼女にとっては旅のある1日の出来事かもしれないが、自分にとっては生涯忘れられない誕生日になった。